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新潟地方裁判所 昭和30年(ワ)212号 判決 1965年6月15日

原告 中島正司

被告 国

訴訟代理人 板井俊雄 外二名

主文

原告の本訴請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、争のない事実

昭和二九年二月二四日新潟県民生部保険課長により訴外日東護謨工業株式会社の工業財団が厚生年金保険及び健康保険料の滞納による公売処分された際、原告がこれを金一六、五〇五、〇〇円で落札し、即日契約保証金一〇〇万円を同課に納入し、その代金納入期限を同年三月二四日と定められた。

原告は右落札代金納入期限たる同年三月二四日までにその代金を納入しなかつたけれども、原告宛の落札が取消されないでいた。

被告は「原告より右財団の落札者たる地位を譲り受けた訴外上原正良が右落札代金を完納したから同人のために売却決定をした」旨称して、新潟地方法務局村松出張所昭和二九年三月三一日受付により右落礼した内の不動産(別紙目録の宅地はその一部分である。)を上原正良名義に所有権移転の嘱託登記手続をした結果そのとおりの嘱託登記がなされている。

右事実はいずれも当事者間に争がない。

二、そこで原告から上原正良に右落札者たる地位の譲渡がなされたか否かにつき検討する。

成立に争のない甲第三号証、乙第三号証の一、二、乙第四号証、乙第五号証の一、二、証人風間詮一(第一、二回)、佐藤益造、滝沢寿一(第一、二回)の各証言、この各証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証(但し「右のとおり相違ありません中島正司」とその名下の印影が原告の印影であることは争がない。)、乙第二号証の一、二(但し原告名下の印影が原告の印影であることは争がない。)、原告本人尋問の結果(第一、二回)の一部を総合すれば、次の事実を認めることができる。

原告は落札代金を調達するべく右落札直後(契約保証金一〇〇万円を納入したのみの段階)から落札財産の一部を第三者へ売却し機械類を他へ搬出撤去していたところ、これが公となり、「日東護謨工業株式会社」や「抵当権者たる株式会社第四銀行」から県保険課長宛に異議の申立がなされたため、同課長等より原状回復を命ぜられるに及び、落札代金の納入期限までに資金の調達が出来なかつたことから、契約保証金を没収されて再公売に付されても致し方のない状況に立たされ或は右落札財産の一部処分の責任の追及を受けるやも知れない窮地に陥つた。原告は県保険課長に対し代金納入期限の猶予方を懇請する一方、知人の佐藤益造等を介して金策を講じた結果、訴外株式会社第四銀行が右落札につき融資してもよいが、これまでの取引の実績から原告に対しては融資出来ないけれども、上原正良になら融資してもよいと態度を表明したため、右の如き窮地に立たされた原告は、不本意たがら同年三月下旬上原正良に対し、公売機関の県保険課長が承認することを条件にして、現状有姿のままで落札者たる地位を譲渡する契約を締結した。この譲渡契約の実現させる手続を滝沢寿一弁護士に原告及び上原の両名が依頼したので、滝沢弁護士は、右「落札者たる地位の譲渡」が法律上可能か或は県もこれを承認するか、その他の手続をめぐつて、いろいろと交渉した結果、県側がこれを承認してもよいという態度を表明した。そこで原告と上原との立会の下に、「原告から上原に右落札者たる地位の譲渡がなされたから、県側に於てこれを承認のうえ上原に所有権移転の手続をしてもらいたい」旨の右地譲渡に必要な関係書類(乙第一号証、第二号証の一、二)を滝沢弁護士が作成し、右両名の承諾のもとに県保険課長宛に提出した。

そこで上原は第四銀行から金一二、五〇五、〇〇〇円を借金し、原告が予め納付した契約保証金一〇〇万円を原告から県側の承諾を得て上原の代金納付に振替えてもらい、その余の金三〇〇万円(当時既に原告が落札物件中一部機械類を訴外富士商事株式会社へ売却し、同会社から原告に支払われる分三〇〇万円を原告に代つて上原が受領することに契約していた。)を受領して、合計金一六、五〇五、〇〇〇円を右落札代金として昭和二九年三月三一日納付した。これにより県保険課長としては即日原告から上原への落札者たる地位の譲渡を承認し、上原からの納付された落札代金を受領し、上原に対し売却決定をなして落札物件の所有権を移転し、かつ、所有権移転登記手続(嘱託)を了した。

右認定に反する甲第九号証、原告本人尋問の結果(一、二回)の一部はいずれも措信せず、その他右認定を左右するに足りる証拠はない。

従つて原告より上原へ落札者たる地位がそのまま譲渡されたものであるから、その譲渡が不成立であることを前提とする原告の主張は失当である。

三、次に原告は「仮に右落札者たる地位が原告から上原に譲渡されたとしても、民法第一〇八条に該当する滝沢弁護士の双方代理によつて成立したものであり、また、滝沢弁護士の行為は弁護士法第二五条第一、二号に該当するものであるから、いずれにせよ右地位の譲渡は無効である。」旨主張するところ、前項認定のとおり、「原告から上原への地位の譲渡は、この両者間で基本的に締結せられ、その実現の手続等に滝沢弁護士が関与して、右譲渡を完成成立せしめたものである以上」、双方代理又は弁護士法第二五条に違反して無効であるとはいえない。従つて原告の右主張も採用できない。

四、更に原告は「落札者たる地位の譲渡は法律上許されない。」旨主張するけれども、落札者たる地位は権利と義務とを含む包括的地位であつて、譲渡人と譲受人との譲渡合意及びこれを公売庁の承認があるときは、右地位の譲渡は法律上有効である。のみならず、原告指摘の国税徴収法施行規則(旧)第二七条をもつて右地位の譲渡を禁止したものとは解し得ない。従つて右主張も採用できない。

五、なお原告は「仮に右落札代金が原告によつて納付されたものでないとするならば、この代金と引換に、原告のために所有権移転登記手続を求める。」旨主張するけれども、前認定のとおり既に原告から上原に右地位の譲渡が有効に成立をしたから右主張は前提において既に失当である。

六、よつて原告の本訴請求はいずれの点からみても、失当として棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉井省己 龍前三郎 瀬戸口敦子)

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